大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 昭和33年(ヨ)187号 決定

申請人 有限会社相互タクシー

被申請人 宮城県旅客自動車労働組合 外一名

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

申請代理人提出の本件提出の本件仮処分命令申請書の記載並びに申請人審訊の結果によれば、

本件仮処分申請の要旨は

申請の趣旨として

「被申請人らは申請人に対し申請人所有の別紙目録記載の自動車の各自動車検査証、自動車損害賠償責任保険証明書エンヂン・スイッチを引渡さなければならない。」

との裁判を求め、

その理由は

(イ)  申請人会社はその肩書地に本店を有し別紙目録記載の自動車四台ほか一台計五台の自動車を所有し、十三名の従業員(運転手を含む)を使用して旅客自動車輸送業を営むものである。被申請人宮城県旅客自動車労働組合は宮城県内で営まれている旅客自動車輸送事業に運転手として雇傭されている労働者で組織する労働組合であつて申請人会社に雇傭されている運転手八島正敏外八名の者は右組合の組合員である。被申請人宮城県旅客自動車労働組合相互支部は右八島正敏外八名で組織する独立の労働組合である。

(ロ)  申請人会社では昨今営業成績が思わしくないので傾きかけた社運挽回策として新たな事業経営計画を立てその結果運転手に三名の剰員が生じたので、昭和三十三年六月二十九日かねてから業務成績の芳ばしくなかつた加藤定一、宍戸清、庄子敏夫(いずれも被申請人らの組合員)を正規の解雇予告手当を支給することにして解雇した。ところが被申請人らは申請人に対し右解雇の撤回を迫り、再三に互つて団体交渉を重ねたが結局埒があかず、遂に被申請人らは同年七月二十三日午前四時からストライキに突入し別紙目録記載の四台の自動車が収納されている申請人会社の車庫には被申請人らの組合員が昼夜を分かたず泊り込んでピケッティングを張つている。それのみならず被申請人らは右四台の自動車にそれぞれ備付けてあつた自動車検査証、自動車損害賠償責任保険証明書、エンヂン・スイッチを何処かに持ち出したうえこれら物件を隠匿するの挙に出た。

申請人は前記のストライキないしピケッティングについてとやかく言うものではないが右物件の隠匿行為は明らかに正当な争議行為の範囲を逸脱するものであり、右の行為は明らかにこれら物件に対する申請人の所有権を侵害するものである。

(ハ)  被申請人らが隠匿した右物件はいずれも別紙目録記載の自動車の運行のために法令上もしくは事実上欠くことのできないものであるが、申請人は被申請人らの右隠匿行為に因り右自動車を運行し得ず、その結果業務の遂行を著しく阻害され甚大な損害を蒙りつつある。それで右の損害を避けるためには今直ちに申請の趣旨記載のような仮処分命令を得る必要がある。

というにある。

よつて申請代理人の提出した疎明資料及び被申請人ら各代表者を審訊した結果によつて案ずるに、

申請人会社が被申請人らの組合員である加藤定一外二名を解雇したことに起因して申請人と被申請人ら間に労働争議が発生し被申請人らは昭和三十三年七月二十三日午後四時からストライキに突入したこと、しかして被申請人らは争議行為の一手段として別紙目録記載の四台の自動車からそれらに備付けの自動車検査証、自動車損害賠償責任保険証明書、エンヂン・スイッチを持ち出し、これら物件を仙台市東四番丁二十四番地角川ビル内の被申請人宮城県旅客自動車労働組合の事務所に保管していることについては疎明充分である。ところで労働争議にあたり労働者が争議行為として事業場内に在る使用者所有の物件を当該事業場の外部に持ち出して保管するが如きことはそれが如何に労働争議の遂行を容易にする手段であるにせよ正当な争議行為とは認め難く、それはひつきよう使用者の所有権に対する侵害として違法たるを免れないから被申請人らは現に前記物件に対する申請人の所有権を侵害しているものであつて、申請人に対しそれら物件をその持出直前に収納されていた場所に返納する義務があるものといわざるを得ない。しかしながら被申請人らの組合員が前記四台の自動車が現に収納されている申請人会社の車庫に昼夜を分かたず泊り込んでピケッティングを張り続けそれに因り申請人によつて前記自動車が使用されるのを阻止し、かつ被申請人らはそれを前記労働争議が解決されるまで続行する決意でいるものであり、他方申請人は右ピケッティングの適法性について特にこれを争わず、かつ前記労働争議の解決とは別個にそれを排除して前記自動車の使用を可能にするための何らかの対抗措置を孰る用意があることは窺われないので前記の労働争議そのものが解決されない限り申請人は仮令前記申請の趣旨に副うような仮処分命令を得たところで前記自動車を運行業務に使用して収益を挙げることは事実上不可能と認められ換言すれば本件において仮処分命令を発したところでそれは申請人の主張するような損害を避けるのに何ら役立たないものと考えられる。されば結局において本件仮処分申請については申請人が主張するような仮処分の必要性につきその疎明不充分といわざるを得ず、しかも右のような事情のもとにあつては申請人に保証を立てさせて右疎明に代えさせることも相当でないと思料する。

よつて本件仮処分命令の申請は理由のないものとしてこれを却下し、申請費用の負担について民訴法第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 宮崎富哉)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例